イジワル外科医の熱愛ロマンス
すぐ目の前で、彼の唇が『雫』という形に動くのを見た。
ものすごく近くまで接近していることに気付き、私の胸がドクッと大きく拍動した時、演奏は第四楽章に続いていた。


苦悩漂う苦しげな第三楽章が終わり、希望に満ちた明るく華やかな演奏に会場全体が揺さぶられる中。
彼が、私を『雫』と呼ぶのを聞いて――。


「っ……」


私は、祐にキスをされた。


この間のように、触れて軽く食むだけじゃない。
祐は閉じた私の唇を舌で強引にこじ開けると、そこからあっさりと中に侵入してきた。


「う、んっ……」


明るく疾走するような演奏が繰り広げられている中、私は背筋をゾクッと震わせていた。
初めての深いキスに、体幹から湧き上がった痺れが、背筋を駆け抜け脳天を貫く。
目の前に、星が飛んだような気がした。


管楽器のキラキラした音色が、楽曲の華やかさを際立たせる。
歓喜のフィナーレに向けて、激しく力強い長大なコーダが一気に加速していく。
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