中島くんの憂鬱
「中島、一緒に帰ろうぜ?」
「えっ⁉︎」
てっきり今日も、ジェラシーと部室に2人っきりかと思った。
だから先に帰るつもりだったんだ。
そうしないとまた__左利き用のグローブに手を突っ込んでしまいそうで。
あれから慌てて、グローブを投げ捨てた。
野球部員たるもの、グローブやバットを粗末に扱わない‼︎という先輩からの訓えさて捨て、部室から飛び出した。
僕はなにをしているんだろう?
なにをしていたんだろう?
忘れたいのに、また明日になれば同じことをしてしまいそうで__。
「ゲーセン寄らね?」
「あ、ああ‼︎」
少しくらい、ブスッとするつもりだった。
今日は1人なのか?喧嘩でもしたのか?なんて冷やかすくらいいいだろう。きっと部活で忙しい花沢さんが居ない穴埋めに過ぎない。
ちょっとくらい怒る権利はあるはずだ。
それなのに、拾われた捨て犬みたいにシッポを振ってしまった。
ただ単純に、嬉しかったからだ。
久しぶりの磯野との下校。
どうでもいい話をして、買い食いして、冗談を言い合って小突き合い、これまでの当たり前が、僕の手に戻ってきた。
意識することもない、クリアに見える磯野。
花沢さんの「は」の字も出てきやしない。ひょっとしたら、本当に別れたのかもしれない。
ごめんよジェラシー、せっかくお前と友達になりかけたけど、どうやら取り越し苦労だったみたいだ。
その苦労は、次の磯野の言葉までだったが。