中島くんの憂鬱
「それは、いつも道子から聞いてるから」
「道子って、花沢さん?」
「そう、磯野くんと付き合い始めたじゃない?磯野くん、いつも中島くんの話ばかりするんだって。なにか食べてても、これ中島に食べさせてやりたい、とか、中島ならこう言うと思うとか。だから道子、中島くんに焼きもち焼いちゃうって言ってた」
「__磯野が?」
「そう。それを聞いてるうちに、中島くんのことが気になり出して。いいなって、そう思うようになったの」
そう言うと、早川さんはまた俯いた。
これは、恥ずかしいパターンの赤だ。
それくらい、いくら僕だって分かる。
「中島くん、誰か好きな人、居るの?」
控えめに、遠慮がちに、でも居ないと言ってほしいという思いが伝わってきた。
その時、僕は思ったんだ。
あ、可愛い。
早川さんて、可愛いかもしれない。
廊下ですれ違ってもなんの印象を持たなかった、おとなし女子が、とっても、とっても可愛く見えた。
「い、居ないよ」
つっかえながら答えた。
いや、居たのか?さっきまで居たのか?それとも、居たって答えて早川さんをガッカリさせておいて、実は君のことが前からとか?でもウソはつきたくない。
「で、でも、早川さんと、お付き合いがしたい」
「ほ、ほんと?」
「本当。僕で良かったら、よろしくお願いします」
頭を下げて、左手を出した。
「嬉しい‼︎中島くん、好き‼︎」
両手で強く握りしめられた。
初めて触れた、女の子の手はとても柔らかくてちょっと冷たくて__。