中島くんの憂鬱
「おい花沢‼︎また磯野に振られたな‼︎」
月曜日、教室の朝は男子の失笑で始まる。
小学生までは、それは僕の専売特許だった。
磯野の陰に隠れた、それでも1番の親友。かけがえのないパートナー。
それが、中学になると様相を変えた。
もちろん、お互いが意識し出す思春期だというのは分かる。
でもどうして?
どうして、花沢さんが現れた?
しかも、家が不動産屋で、名前も一文字違い。
地味な中島くんとは違い、一気にお株を奪っていったというわけだ。
それでも僕は安心していた。
テレビと違い、花沢さんはグイグイ来ない。今にも泣きそうな顔をした、おとなし女子だ。
一方、磯野だって、花沢さんなんかタイプじゃない。
いや、毎日が部活部活でそんな話はしたことないけど、きっとテレビと同じで嫌がっているはずだ。
「磯野、今日の部活、体育館だってさ」
「なら廊下で投げ込む?」
悪戯っぽく微笑む磯野。
「いいね」
テレビなら反対する、どちらかというとビビリの中島くんだが、僕は違う。
なんせ、磯野の豪速球を受け取られるのは僕だけ。
2人のバッテリーは、テレビも敵わない黄金コンビ。
「お前もいい加減、迷惑だよなぁ?」
「ん?」
「花沢さんさ」
「ああ。ちょっとな」
磯野は顔をしかめた。
だから僕は安心していた。
それなのにまさか__。