僕の恋の色 【短編】
「…見ます?私も出来てませんけど」
話し掛けられた驚きの余り、嬉しさの余りに心臓が跳ね上がった。
そして、無意識に覗き込んでいたために、かなり顔を近づけてしまっていた。
これはやってしまった。
これではただの変態ではないか。
「え、いいの?」
「どうぞ。あまり自信は無いですけど」
「ありがとう。ごめんね」
「いえ」
そう言って彼女は会釈しながら、柔らかく微笑む。
先程、跳ね上がった心臓が今度はわしづかみにされる。
「和田くん。最後の問題、わかりますか?最後の方、私、寝ちゃって」
これには驚かされた。
彼女が僕の名前を知っていた。
「和田くん…?」
「ん?あぁ、ごめん。わからないや」
ですよねー、なんて楽しそうに笑う。
君がそんな顔するから、僕が期待してしまうんだ。
「大丈夫ですか?顔赤いですよ」
冷静な顔をして、君は言う。
やっぱり僕は赤で、君は緑。
二人は対極の位置にいる。
交われば、真っ黒になってしまうかもしれないのに、どうしても惹かれてしまう。
「…もう、このまま出しちゃおうか。わからないし」
「私はもう少し考えてみます」
「そ、そっか。じゃあ僕はこれで」
「はい、お疲れ様でした」
あ、これだけは言っておかないと。
せっかく初めて君と話せたから、出来るだけの好印象を残しておきたい。
「お疲れさま。また明日──
僕の名前を呼んでくれた君の名前を呼んで。
僕の恋の色
おわり。