炭酸アンチヒーロー
「……まーな」



パシッ。今度は俺の投げたボールが、悠介のグラブに吸い込まれた。

悠介は右手にはめた焦げ茶色のそれをあごにあてながら、なぜかにやにやとこちらを見ている。

俺の眉間に、自然とシワが寄った。



「んだよ」

「いや別にー? 例の、同じクラスのあのコ絡みかなぁって」



ムカつく笑いを浮かべたままそう指摘され、ますます顔をしかめる。

マジうぜぇ。なんでこいつは、昔から変にカンがいいんだよ。

ちなみに俺にすきな奴がいるってことは、なぜか悠介だけが知っていたりする。

なんなんだこいつ、実はエスパーか?


自分でも馬鹿らしいと思うことを頭の中でつぶやきつつ、俺はそばに置いていた黒いキャッチャーマスクを拾い上げた。慣れた手つきでそれを装着し、そのまま地面にしゃがみ込む。

対する悠介もグラブの中でくるくるとボールを回しながら、足元の土をスパイクでならした。

その間も、会話は途切れない。



「別に、おまえには関係ねーし」

「いーじゃん、俺たち中学からメオトな仲だろ~? 女房のこといろいろ把握しとくのは、旦那の役目だと思わねぇ?」

「気持ち悪い言い方すんなっての。バッテリーは組むけど、おまえとはメオトになりたくねぇ」

「なにそれ、ひどっ!!」



防具をつけて地面にしゃがむ俺と、立ったままボールをもてあそんでいる悠介。

今現在の構図を見てのとおり、悠介がピッチャー、俺がキャッチャー。

このふざけたサウスポー・エースとは、かれこれ5年以上の付き合いになる。

高校3年の今が、こいつとグラウンドに立つ最後の年だ。
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