炭酸アンチヒーロー
「んじゃ、とりあえず5球」

「はいよー」



悠介の返事を確認し、いつも、互いが集中する瞬間。

キャッチャーミットを構える。ボールを回していた悠介の手が止まる。

帽子の下の顔つきが変わって、ゆっくりと、ワインドアップする。


──ヒュッ……パンッ!!



「オッケー! ナイスボール!!」



空気を震わす音。ミット越しに感じた絶妙な衝撃。両方に満足した俺は、そう声を出して返球した。

ボールは綺麗に十数メートル先のグラブへと収まり、ぐっと片手で帽子のつばを上げた悠介が得意げに笑う。

それを見た俺も、同じようにマスクの下の口元を緩めた。



「今日も絶好調?」

「とーぜん!」



間髪入れず返ってきた答えにうなずき、引き続きミットを構える。中学の頃から変わらないこの応酬は、もはや俺たちのルーティンのようなものだ。

調子の良さそうな悠介のボールを再び受けながら、俺は金曜日──昨日の放課後の出来事を、思い出していた。
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