炭酸アンチヒーロー
誰かの話し声が耳に届いたような気がして、俺はゆっくりと目を開けた。

……白い天井と、消毒液の匂い。

ここは……保健室、か?

そこまで考え、先ほど自分の身に起こった出来事の記憶もよみがえる。



「……ッつ、」



体を動かしかけると、鈍く頭が痛む。が、構わずベッドの上で上半身を起こした。

その音に気づいたのか、薄い布で仕切られた向こうから人影が近づいてくる。

シャッと小気味良い音をたてて、遠慮なくカーテンが開かれた。



「あ、辻くん気がついた?」

「……俺、階段から落ちて……」

「うん、そう。あなた一躍ヒーローよ」



姿を見せたのは、見覚えのある女性の養護教諭だ。俺のつぶやきに、イタズラっぽく笑う。

『ヒーロー』という呼び名に一瞬首をかしげたけど、すぐに理解した。

……つまり落ちる直前に俺が押し上げたあの女子は、無事だったのか。
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