炭酸アンチヒーロー
◆ ◆ ◆
「俺のこと、すきになれば」
どうにも上から目線感は否めないが、今までずっと、心の中で繰り返し思っていたこと。
伝えた直後、元からくりくりしている蓮見の目がさらに見開かれて、ついでに口もぱくりと半開きになった。
その反応があまりにも予想通りで、ついでに間抜けで。思わず笑ってしまいそうになるのをなんとか堪える。
……そしてそんな間抜けな表情ですらかわいいなんて考えてしまっている自分は、相当重傷だと思った。
「え、な、じょ、冗談ですよね……?」
「なにが?」
「や、だから、す、『すきになれば』とか」
「本気だけど」
未だに蓮見の頬にやわらかく指先で触れながら、俺は淡々と返す。
別に、照れたりはしない。ただ訊かれたことに答えているだけだ。
ここにきて、彼女の顔がだんだん赤くなってきた。おもしれぇな。
「ごごごごごめんなさい、はな、話の展開についていけてないんですが」
「思ったんだけど、さっきからどもりすぎじゃねー?」
「スルーですか?!!」
赤面したまますかさず抗議された。だってなんか、自分の前で目に見えて動揺している蓮見が、なんとなく小動物っぽくてかわいい。なんていうか、いじめてやりたくなる。
別に俺自分ではSっ気があるつもりないんだけど、気づいていなかっただけで実はその気があったんだろうか。新発見だ。
「えええいやあの、私が金子くんのことがすきって辻くん知ってるんだよね……?」
「でもついさっき失恋したじゃん」
「なんて直球……!!」
俺の言葉にうろたえながらもいちいち全力でつっこんでくる蓮見が、おもしろい。
けれども「と、とりあえずこの手をよけてください」という彼女の意見を受け入れて、ほんのり赤く染まった頬からしぶしぶ手を離してやった。
安心したように、大きく蓮見が息を吐く。