炭酸アンチヒーロー
#5.きらきらに輝く、きみ
・「覚えてないかもしれないけど」
黒板の前で担任の先生が話す明日の連絡事項を、ぼんやりと聞き流す。
少し視線をずらせば、教室の真ん中あたり──ひとつだけ空席になった、辻くんの机が目に入った。
『いいよ。……何も、言わなくて』
つい2時間ほど前。辻くんと自分しかいない、静かな保健室で。
……あんなふうに、言わせたくなかった。
あんな顔を、してほしくなかった。
頭に乗せられた手は、大きくてやさしくて。
中途半端な態度で彼を傷つけている自分が情けなくて、泣きそうになった。
『わ、私は、でも……──』
……“でも”に続く、言葉が。
自分でも、わからなかった。
あの後すぐに、辻くんは早退したらしい。
私はといえば、途中出席した5限目の生物もそのあとの現代文の授業も、全然集中できずに……保健室での、辻くんとの会話ばかり思い出していた。
ただ時間だけが過ぎ、いつの間にか、今は帰りのショートホームルーム中だ。