炭酸アンチヒーロー
◆ ◆ ◆
「ごめんねはすみん、なるべく早く戻ってくるから!」
「んーん、気にしなくていいよー」
顔の前で両手を合わせて謝る佳柄に、私は笑って返す。
今日も一緒に帰る約束をしていた私たちだけど、佳柄は担任と進路の話をする予定だったことをすっかり忘れていたらしい。
このあと特に用事もなかった私は、それが終わるのを、ひとり待つことに。
ちなみに沙頼はめったにない茶道部の活動日だとかで、帰りのショートホームルームが終わった直後から別行動だ。
「それじゃ、行きたくないけど進路指導室いってきまーす!」
「あはは、いってらしゃい」
警察官よろしく敬礼する佳柄を笑い混じりに見送って、私は後ろにあったベンチに腰を下ろした。
放課後の中途半端な時間である今現在、生徒玄関近くのこのベンチ周辺には人通りがあまりない。
耳に届くのは、体育館側から聞こえてくる部活に励む生徒の声やボールが弾む音くらいだ。
こてんと後ろの壁に頭をつけると、喧騒の少ない校内の空気は思いのほか心地よくて。
気づけば私はそのまま、ゆっくりと目を閉じていた。