炭酸アンチヒーロー
「えと、今日、部活終わるの早いんだね」

「……あー、なんか、監督が用事あるらしくて」

「そっか」



そう言って地面に視線を落とした蓮見は見慣れた制服姿で、手にはカバンも持っている。

もしかしてホームルームが終わってからずっと、一旦帰宅することもなく学校にいたのだろうか。

……なんの、ために?



《わ、私は、でも……──》

《いいよ。……何も、言わなくて》



あのとき。保健室で泣きそうなカオをした蓮見の言葉を遮って、そう言ったのは。

決断を迫っているのは自分自身のくせに、蓮見のそんな表情を見ることに堪えられなくなったから。


……だけどそんなものは、しょせん建前で。

結局は、「でも」に続く言葉が怖くて、逃げ出したようなものだ。



「あの、ね」



──だから、今も。

何か言おうとする蓮見に気づいた俺は、それを邪魔するように、とっさに口を動かしていた。



「蓮見、キャッチボールやったことある?」

「……へ?」
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