炭酸アンチヒーロー
「い、いいの? このグローブ借りちゃって」

「いーんだよ。どーせ予備のだから」



一度は去ろうとした、グラウンドの端の方。そこには似つかわしくなくなぜか立っているセーラー服の女子と、ユニフォーム姿の野球部員。

言葉を返しつつ、俺はキャッチボールができるくらいの距離をとるために蓮見から少し離れる。

そうして足を止めた場所で自分のグラブの具合を見ながら、俺はこっそりため息をついた。


……なにやってんだ、俺。

こんな、ずるずる後回しにしようったって、何も変わらないのに。



「それじゃあ、いきます、よー」

「……おー」



ボールを持った右手を上げた彼女に、俺もグラブを振って応じる。



「えいっ」



小さな掛け声とともに放られた白球は、俺に届く1メートルほど手前で、ぽとりと地面に落ちた。

……まあ、予想通りというか、なんというか。



「へったくそ……」

「……!」



つい漏らしてしまった本音が聞こえたらしい。蓮見がガーンという効果音が聞こえてきそうな、ショックを受けた顔をする。

相変わらず、わかりやすい奴。俺は苦笑いして、拾ったボールを彼女へと投げ返した。
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