炭酸アンチヒーロー
・「声、ちゃんと聞こえてたよ」
「辻くん!」
私の呼びかけに反応して、ユニフォーム姿の彼がゆっくりとこちらを振り向いた。
だけどその隣には、私の知らない、女の子の姿。
「あ、蓮見」
「つ、辻くん……誰? その、女の子……」
「ああ、俺の彼女だよ」
あっさりそう返しながら、彼は傍らの女の子の髪を撫でる。
対する私はというと、その言葉をすぐには理解できなくて。
「え……」
「蓮見、いつまでたってもはっきりしないから……俺、もういい加減疲れたんだよ」
ため息をついた辻くんの腕に、女の子が甘えるように自分の手を絡める。
彼はそんな彼女の肩に手をまわし、ぐっと引き寄せた。
「だから俺は、自分のことをすきだと言ってくれる女と付き合う。──もう、蓮見には興味ないから」
そう言い残して、辻くんは彼女と手をつなぎながらどこかへと歩きだしてしまう。
その背中を、追いかけたいのに。私の足はまるで石にでもなったかのように、動いてくれない。
「辻く……待って……っ」
やだ……こんなの、嫌だよ……。
私が、ずるずると金子くんへの未練を引きずってたから?
辻くんのやさしさに、甘えすぎてたから?
ぐらぐらと、足元が揺れる。
私は、目の前が真っ暗になった。