炭酸アンチヒーロー
──ああ、もう。

こんなのって。……こんなのって。


視線の先にいる辻くんは、グローブで里見くんに肩を叩かれながらベンチに駆け足で向かっていた。

白いユニフォームに、土色が目立つ。だけどその表情は、晴れやかだ。


ふと、スタンドのこちら側を見上げた辻くんと目が合った。不意打ちの出来事に、私は思わず固まる。

彼は少しだけ驚いたような顔をして、けれどもすぐに、その口角をつり上げた。

『どーだ』って、雄弁な黒い瞳が言っている。



「辻っち、こっち見たね?」

「あらー、気づかれたかな?」



隣で話す沙頼と佳柄の会話も、耳に入らない。

どくんどくんと、心臓が大きく脈打つ。

固く握りしめた両手は、ちょっとだけ震えてしまっていて。


──私は、知ってる。

この苦しいほどの感情を、なんて呼べばいいのか。
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