炭酸アンチヒーロー
「わ、私……自分では金子くんのことがすきだと思ってるのに、辻くんのことも気になって、」

「うん」

「私って気の多い女なのかもって、悩んだりして、」

「……うん」



返事をしながら、辻くんが私の肩にまわしていた右手をずらす。そのまま、くしゃりと髪を撫でられた。



「蓮見のせいじゃないよ。──俺のせい」

「え?」

「だって俺が、こうなるように仕向けたんだから」



──だから全部、俺のせい。


そう言って彼は、私の肩口から少しだけ顔を上げて笑った。

その言葉と表情に、息が詰まる。



「……な、なんで……そんなこと、言ったって、私……」

「うん、わかってて言ってるから」



ぽんぽんと頭で弾む手の持ち主は、やっぱり、不器用にやさしい。

こうやってイタズラっぽく言ってるけど、違うんだ。

彼のいろんな表情を知った、今ならちゃんとわかる。……辻くんは、私が気に病まないように。あくまで自分が悪者になるように、そうやって言ってくれていること。

私は辻くんに、大切にされてること。

おさえきれず、また、涙があふれてきた。


……私がすきになったのは、こういう人だって。

この気持ちは、恋なんだって。

今ならやっと、胸を張って言える。
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