炭酸アンチヒーロー
……でも。



「俺にだって人並みにあるよ、物欲は」

「へぇ~? それは失礼しました」



いたって平然と話す俺に対し、金子が興味深げに眉を上げた。

“物”欲って言い方は少し引っかかるけど、……まあ、欲しいものには違いない。

俺は首の後ろに片手をまわして、いかにも演技よろしくため息をついた。



「でもその欲しいもの、今は他の奴が独占してるからさ。どうやって手に入れようか考え中」

「……頼むから犯罪になるようなことだけはすんなよ」

「しねーよ。……たぶん」



最後にわざと小声で付け足したら、金子の顔がおもしろいくらい青くなった。

あえて、冗談だとは言わないでおく。特に実害ないし。
そのまま俺が歩き出すと、気配で、金子もあとを追ってくるのがわかった。

後ろから、大きなため息が聞こえる。



「ほんと、辻の冗談はシャレになんねぇ……」

「冗談ってわかってんならいーだろ」

「そういうことじゃなくて──」



顔も見ずに放った俺のセリフに、金子は反論しようとしたらしい。けれどもその声が、徐々にフェードアウトしていく。

何事かと振り返れば、金子の視線の先──7組の教室の前に立っていた人物の存在に気づいて、ああ、と声には出さず納得した。

ああ、そう。アレを見つけたから、俺のことなんてどうでもよくなったわけか。
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