炭酸アンチヒーロー
「あ、金子くんっ」

「中井さん! うわごめんっ、もしかしてずっと待っててくれたの?!」



思わず足を止めていた俺をあっさり追い越し、金子が慌てて中井へと駆け寄った。

その後の会話は聞こえないけど、中井は目の前に来た金子を見上げながら、うれしそうにニコニコと笑っている。

……なんというか、傍目にも浮かれたオーラ出しまくってるな、こいつら。

それぞれ異性に人気のあるふたりが一緒にいるということがあってか、廊下を通る生徒たちが興味津々といった様子で視線を送っている。

俺はまた、止めていた足を動かし始めた。



「じゃーな金子」

「あっ、じゃーな辻!」



わかりやすくデレデレ緩みきった顔をした金子の肩を軽く叩き、その横を通り過ぎる。

後ろ姿で片手を挙げて、最後の言葉に応えた。


金子のやつ中井を視界に入れたとたん、頭から完全に俺の存在すっぽ抜けてたな。別にいいけど。

……つーか、その位置にふたりで立たれたら8組から見えるんじゃねーの。


後ろのドアを通って教室に入ると、案の定開放された前側のドアからは、ちょうど金子と中井の姿が見えて。

そして視線の通過点、新井田の席のそばにいる、蓮見の姿も目に入った。

坂下と新井田は何やら会話をしていて、だけど蓮見の顔は、金子と中井の方に向けられている。


──ああ、またあのカオ、だ。

愛しいものでも見るような、眩しいものでも見るような。そんな何とも形容しがたいやさしげな表情。

けれども金子を見つめる彼女の顔は、以前までのそれに加えて、どこか苦しそうだった。
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