炭酸アンチヒーロー
これ以上見ていられなくて、蓮見から視線を逸らす。

視界に入ったのは、集まってトランプをしていた数人の男子たちの姿だ。

ゆっくりと、そちらに足を向けた。



「あ、辻ー! おっまえどこ行ってたんだよ!」

「ん、あー……」

「? 辻、どーかしたん?」



話しかけてきた友達のひとりに曖昧な返事をしつつ、手近な椅子に腰をおろす。

そんな俺に続けて声をかけたのは、右隣で手持ちのカードを揃えていた高原(たかはら)だ。不思議そうに首をかしげ、男にしては長いまつ毛がふちどる目でじっと俺を見ていた。

……どうでもいいけどコイツは童顔なうえ女顔だから、こういうしぐさが妙に似合うな。



「なんでおまえ、男として生まれたの?」

「は? ………てめー辻ッ!! ぶっ飛ばす!!」



一瞬、きょとんと目をまたたかせる間があった。その後、ものすごい形相で勢いよく立ち上がった高原。今にも俺に飛びかかって噛みついてきそう。

そんなアドレナリン全開な高原を、周りにいた奴らが「まあまあ」とか「落ち着け」だとか言いながら慣れた様子で宥めている。身長差があるから、残念ながら高原は簡単に押さえ込まれていた。

よし、さりげなく話題を逸らすことに成功。俺はぎゃあぎゃあ騒ぐ高原をスルーして、今さっき机の上に放られたバラバラのトランプに手を伸ばした。自分で煽っといてひどい? 知るかそんなの。



「俺、高原の代わりに参加な」

「いーぜ! じゃあ今度は、カード引くの辻からってことでー。負けたらジュース奢りだからな!」

「おお、やってやろーじゃん」



言いながら、手持ちのカードの中から同じ数字のペアを抜いて机の上に出していく。

そうして昼休みが終わるまで、俺はクラスメイトたちとトランプ遊びに興じたのだった。
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