炭酸アンチヒーロー
……にしても、内心のイラつきが顔に出ていたとは。

無意識に作ってしまっていた眉間のシワの原因は、わかっている。おそらく、昼休みの出来事を先ほど不意に思い出してしまったせいだ。

失恋した今でも、というよりそのせいもあるのか、何とも言えない表情で金子を見つめていた蓮見。

あんなものを見てしまうと、あいつの気持ちが未だ金子に向かっていることを思い知らされる。

……けどまあ、失恋直後としては仕方ないことだし、長期戦も覚悟してるし。とにかく今は、部活中なんだから切り替えないと。



「あのー、すんませーん」



俺が13本め、悠介が5本めのヒットを打ったところで、後ろから声がかかった。

ふたりほぼ同時に振り返る。と、そこには見慣れた後輩の姿。



「先輩たち、監督がピッチング練習始めろって言うんで、そろそろマシン譲ってください」

「あー、わりぃ」



ネット越しに監督の指示を伝えてきたのは、控え投手である2年生の東だった。

集中しすぎて、思っていた以上に時間が経っていたらしい。俺は東がわざわざ伝言を頼まれてきたことと、マシンをしばらく独占していたことに対する謝罪を口にしながらメットを外す。

けれど隣に立つ悠介は、そこで不満げに唇をとがらせた。
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