炭酸アンチヒーロー
「おーい、ヒロ~?」

「………」

「もしもーし、聞いてますかヒロトく~ん?」

「……ん? ああ、」



十数メートル先で俺を呼ぶ悠介の声にハッとして、俺は右手にあったボールを投げる。

ボールは左上気味に逸れ、それでも上手いこと悠介が飛びついたことで、一応はグラブに収まった。

悠介がボールを弄りながら、不審げに眉を寄せる。



「ヒロ、やっぱおかしいって。体調でも悪いとか?」

「んなことねーよ。ほら、ボール」

「……なら、いーけどさ」



その言葉と同時に返ってきたボールは、パシンと音をたてて俺のミットへ。

頭の中では、部活に集中しなければいけないと理解していた。

副部長の俺がうわの空のこんな調子でキャッチボールをしていては、後輩にも示しがつかない。なのに気づくと、意識はすぐに先ほどの出来事へと向いてしまう。


思わず掴んで引いた蓮見の細い手首とか、無理に明るくした声とか、なぜか赤くなった顔とか。

……別れ際にぶつけられた、言葉とか。
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