炭酸アンチヒーロー
蓮見が金子のことがすきだってことは知ってるし、だからといって、俺の気持ちが変わるわけでもない。

むしろ、金子じゃなくて俺の方を向かせる、くらいの心持ちだったんだけど。



『わ、私はっ、あの人のああいうお茶目なところも好きだったんだもん……!!』



けれどもさっきから何度も頭の中でリピートしているのは、セミナー室の前、真っ赤な顔であいつが言ったセリフで。

……もしかして、俺。

自分が思ってる以上に──相当ヘコんでる、のか?



「どーかしたんすかヒロ先輩。なんか今日、いつもより覇気がありませんけど」



キャッチボールも終わり、一旦休憩中。フェンスのそばの芝生に腰かけていた俺の目の前へ、そんな言葉と共にコップが差し出された。

ゆるゆると視線を上げると、そこにいたのは1学年後輩の東だ。



「……さんきゅ」

「いーえ」



スポーツドリンク入りのコップを受け取った俺の横に、そのまま東も腰をおろす。



「ヒロ先輩、さっきユウ先輩の投げたボールこぼしてたでしょ。それ見てた野球部員、みんな動揺してたんすよ」

「あ~……」

「日村先輩なんかもう、『今日はこれから氷雨が降るぞ!』なんて言い出して」

「よし、あいつはスポドリイン生卵の刑だな」



以前部員内で遊びの罰ゲームとして開発されたおぞましい飲み物を思い浮かべ、俺は神妙な顔でうなずいた。

まあ、俺が悠介のボールを捕球しそこねるなんてめったにないことだし。部員の奴らが動揺してたってのは、冗談ではないんだろうが。
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