炭酸アンチヒーロー
「い、1回学校は出たんだけど、教室にスマホ忘れちゃったことに気づいて……」

「ああ、そういえばさっき、どっかの机からバイブの音してたな」



その言葉を聞いて、ハッとした私はようやく自分の席へ近づく。

机の中を片手で探ると、スマホは簡単に見つかった。取り出したそれは、メールや着信を知らせるライトがチカチカと光っている。



「あ、私のだったみたい。ごめんね辻くん、うるさかったでしょ?」



鉄製の机の中でバイブが鳴ると、狭い空間で響くからかそれなりに音が大きくなってしまう。

そのことを謝罪すると、辻くんは緩く首を横に振った。



「や、うるさいっつーか、ぼーっとしてたから少しびっくりしたけど」

「そっ、か」



自分の席まで来たおかげで、さっきよりも辻くんとの距離が近い。

このうるさい心臓の音、まさか辻くんには届かないよね。

ドキドキしながら、なるべく自然に聞こえるように、言葉を選ぶ。



「えと、辻くん部活は?」

「……今日はもう、終わり」



俺だけ、な。小さくだけど、たしかにそう聞こえた。

なんで? ……『俺だけ』?

再び窓の外へ視線を向けている辻くんの横顔を、思わず見つめる。
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