炭酸アンチヒーロー
「監督に……今日はもう帰れって言われて、抜けてきた。他の奴らはまだ練習してるよ」

「ど、どうして?」

「……今日の俺の出来は、自分が1番わかってるから」



私の疑問に対する答えのような、もしくはただのひとりごととも思えるようなものを辻くんがつぶやいた。

そして左腕で自分の目元を隠しながら、うつむく。



「蓮見、わりーけど、早いとこ教室から出てってくれねぇ? ……たぶん俺今、相当かっこ悪いから……見られたくない」



初めて、聞いた。辻くんのいつもとは違う、覇気のない声。

窓から差し込んだ夕陽に溶け込むみたいに、少し小さく見える背中。



「……ッ、」



なんで、なんで。

かっこ悪くなんてないよ。それに恥ずかしくも、情けなくだってないよ。

だって、グラウンドのきみは。

私なんかを気にかけてくれるきみは、あの場所であんなに──……。


もう、ほとんど無意識だった。そのときばかりは、さっきまで感じていたはずの気まずさを思い出さない。

私は、気づくと彼のいる机に向かって足を進めていて。

気づくと、辻くんに向かって手を伸ばしていた。
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