炭酸アンチヒーロー
辻くんのちょっと固くて短めの髪に、私の右手が触れる。

瞬間、それまでうつむきがちだった辻くんが、バッと顔を上げた。



「ッはす、み?」

「え? ……わ、わわっ」



驚きに満ちたその表情を見たとたん、我に返って。慌てて手を離した。

な、なんで、頭なんか撫でてんの私……!

あああもう、自分の行動が信じられませんよ……?!



「え、えーと……」



うう、上から突き刺さる辻くんの視線と無言が重い。もういっそからかうか、笑い飛ばすか、むしろスルーしてくれれば……って、はい、無理ですよね辻くんだし……。


でも、見ていられなかった。あんな、普段の堂々とした態度からは想像できない辻くんの様子を目の当たりにして、いてもたってもいられなくなってしまった。

……その結果の行動が、頭を撫でるってなんなのって感じだけど……。



「えと、あ、私っ、この前たまたま第2グラウンドの横を通ったときに見たんだけどねっ」

「は……」

「あの、部活中の辻くん、すごく真剣な表情でかっこよかったよ!」



とっさに口から出たセリフに、頭上の辻くんが息を飲む気配を感じた。

気まずさのあまり、私は視線を彼が腰かける机に固定している。テンパりすぎて自分の発言を辻くんがどう思うかなんて考えられないまま、続けた。
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