炭酸アンチヒーロー
そんなことをぼんやり考えている、と。



「……あ、」



不意に聞こえてきた、辻くんの呟き。

何事かと顔を上げる私の目の前で、彼が窓の向こうを指さした。



「蓮見、あれ見て」

「?」



特に何も考えず、言われるがまま伸び上がって素直にその指の示す方向へと視線を向ける。

そして次の瞬間、私は激しくその行動を後悔した。



「……!」

「あのふたり、両思いだとわかったらもう抱き合ってるし。あれはもう完全にふたりだけの世界だよなぁ。あいつらここが学校ってこと忘れてんじゃねーの」

「だっ、だだだからって、何も私にまで見せること……!」

「ああ、わりー」



……なんだろう。どんなに妥協しても、そのセリフは悪いと思っているようには聞こえない。辻くんの話し方は相変わらず無愛想で、表情にもにこやかさなんか見あたらなくて。

そして形式だけの謝罪を口にする彼は、まるでそうすることがあたりまえかのようにポンポンと私の頭を軽く叩く。

辻くんとこんなにたくさん話したのは今日が初めてで、そのわりに思いのほか会話は弾んでいる。それから、辻くんがためらう素振りもなく私に触れてきたことにも驚いた。

なんかもう、よくわかんないや。いろいろと予想外なことばかり起きるこの状況に、私はもう、すっかり脱力してしまっていた。
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