炭酸アンチヒーロー
#3.雨の日に、衝動
・「ちょっと、動揺してたんだ?」
……ああ、まただ。
心の中でつぶやいて、深くため息をつく。
すると傍らに立つ高原が、男にしてはでかい目をまたたかせて首をかしげた。
「辻、今日ため息多くねぇ?」
「あー、たしかに辻、さっきからしまくってんな。何、なんか悩み事?」
「マジ? 辻の悩みってどんなんだよ?」
高原の言葉に反応した他の奴らも、俺の机に身を乗り出すようにして訊ねてくる。
今日もいつものように学校が始まり、現在は2限目が終わった休み時間だ。
朝からすでに片手で数えるには足りないほどため息をついていた俺を、近くで見ていた奴らはさすがに不審に思ったらしい。
……訊かれたところで、言えるわけねぇな。
今度は内心で盛大に深く息を吐きながら、表情は平然と見せて椅子から立ち上がった。
「別に、そんなんじゃねぇよ。ちょっと飲みもん買ってくる」
「あー、いってらっしゃーい」
自分を送り出す声を背に、机と机の間をすり抜けて教室の出入り口を目指す。
廊下へ出る間際、ふと気になって教室の中へと目を向けると──つい先ほどと同じように、あるひとりの人物とばっちり視線が絡まって。そしてすぐに逸らされてしまう。
「(……これで、何回目だ)」
“ある人物”とは、言うまでもなく蓮見のことで。
昨日のあの出来事から一晩が経ち、迎えた今日。蓮見は朝からずっと、この調子だ。