炭酸アンチヒーロー
・「ご、ごめんなさい」
「……あ」
「あ」
朝練を終えて教室に入ろうとドアを開けた瞬間、中途半端な高さに手を上げた蓮見と視線がかち合った。
ちょうど中からドアに手をかけようとしていたらしく、どこか気まずい雰囲気が流れる。
と、数秒間床に視線をさまよわせていた蓮見が、バッと顔を上げた。
思いのほか強いそのまなざしに、ついたじろぐ。
「辻くん、お、おは、おはようっ」
「え、……あ、ああ。はよ」
俺の返事を確認するやいなや、ほっとしたような表情を浮かべる蓮見。その後はそそくさと、脇を通り抜けていった。
挨拶ひとつで、やけに力んでいる。俺はその後ろ姿を見送りながら、訳がわからず首をかしげた。
『そのさ、すぐ逃げたりすんのとかやめろよ。結構傷つく』
先日、見事なまでに俺のことを避けまくっていた蓮見にそう言ったのは、まぎれもなく自分だ。
……あの、やけに肩に力の入った挨拶は。
もしかすると、ああ話した俺に対してなるべく逃げずに関わろうと、彼女なりに考えた結果なのだろうか。