炭酸アンチヒーロー
「──蓮見? 何やってんの?」

「え?」



自分を呼ぶ声に反応して振り向いた蓮見は、俺の姿を確認すると目を丸くした。

……今は放課後で、彼女はかばんを手にしていて、ここは校舎の外で。

だから何をしているかなんて、聞かなくてもわかることなんだけど。

だけど、そこであえて俺がそう口にしたのは──この雨の中、蓮見が傘も差さず頭に腕をかざしながら、足早に歩いていたから。



「あ、私、今日傘忘れちゃって……だからとりあえずバス停までこのまま、」

「待った。蓮見ちょっと来て」



彼女の言葉を遮り、その濡れた腕を掴む。

……傘を忘れた? んで、この雨なのに歩いてバス停までって?

パッとこちらを見上げた蓮見に、自分が手にしていた学ランを被せてやる。そのまま腕を引いて、駆け足で部室の方へとUターンした。

先ほどかけたばかりの鍵を再び開け、雪崩れるように中へと駆け込む。
< 84 / 159 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop