炭酸アンチヒーロー
「つっ、辻くん?」

「……何やってんだよ、蓮見。こんな雨ん中傘も差さないで歩くとか、ほんと何やってんの」

「え? ご、ごめんなさ、……?」



自分がここに連れて来られ、そして怒られている理由がわからずに。きょとんとしたまま、それでも謝罪の言葉を口にする蓮見。

俺はまだ言い募ろうとしたけど、頭の上に疑問符を浮かべながらこちらを見上げる彼女を見ていたら……なんだか気が抜けてしまって、口を閉じた。

……他人の置き傘を勝手に使う、っていう思考は、コイツにはないんだろうな。うん、絶対ないな。

軽くため息をつき、彼女の腕を掴んでいた手を放した俺は、自分のロッカーの前へと向かう。



「そのへんに、部員の誰かが持ってきた置き傘あるから。それ使っていーよ」

「え?」

「あとこれ、タオル。俺のだけど、まだ使ってないから」

「わっ」



ごそごそとロッカーを漁って洗ったばかりのタオルを見つけると、それを彼女に向かって投げてやる。

危なっかしくも、蓮見がなんとかタオルを受け取った。ナイスキャッチ。

しかしそれと俺とを見比べながら、また困惑した様子で口を開く。
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