炭酸アンチヒーロー
快晴の空の下、グラウンドにはチームメイトたちの声やバットがボールを弾く金属音が響き渡っている。

もう5月も終わりかけともなれば、照りつける日差しはなかなかの攻撃力だ。こめかみを汗がつたったそのとき、左手につけたミットがパン!と音をたてながら衝撃を受けて震えた。

聞き慣れたその軽快な音は、今日も耳に心地いい。



「ヒロさー、なんかいいことでもあった?」

「は?」



マウンド上にいるキャッチボールの相手──同じ野球部員である里見 悠介(さとみ ゆうすけ)が、どことなく楽しげに訊ねてきた。

俺はというと受け取ったボールを右手でいじりながら、不審に思ったことを隠そうともせず眉を寄せる。



「だって普段部活やってるときのヒロの表情って、真剣っつーかポーカーフェイスっつーかさぁ。だけど今のおまえは、なんかもう見るからに機嫌イイ」

「……あぁ?」

「お、その反応は図星か~?」



……別に俺自身は、普段からそのときの気分を顔に出しているつもりはないんだが。

というか、今機嫌がいいと自覚しているつもりもなかったし。

無意識に表情に出していたのか?……なんて考えてみたけど、すぐにその可能性は消す。

おそらく、付き合いの長いこいつだからこそ俺の些細な変化にも目ざとく気がつくのだろう。
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