WANTED ~何故か隣国で指名手配されていたので、乗り込んでみました~ (平行世界)
 翌日。
 アルカディアは宿を後にした。
 ラミーノアが王城まで送ろうかと申し出てくれたがお断りをした。
 街を歩きたかったのだ。
 あまり覚えていないが、この街は幼い頃に両親と共に過ごした場所。
 街並みを見れば少しは思い出すかもしれない。
 鍛冶屋で働いていた父の様子を、こっそり母と覗いてみたり。
 名前も分からない謎の母の手料理…失敗作を文句も言わず食べていた父だったり。
 日常の記憶は少し残っている。
 それでも、記憶とピタリ当てはまる風景にはなかなか出会えない。
 10年も経てばそんなものか。
 太陽もだいぶん上ってきている。昼までに出向いて用事を済ませたい。
 そのあと、またゆっくりと街中を散策すればいいか。
 そう思いながら、高台の上の王宮に目を向ける。
 そして、ふとこの景色は見たことがある、と感じた。
 両親の思い出ではない所で。
『帰っちゃうの?』
『また来るから、約束な』
 そう言って帰っていくのを見送る先には王宮が見えていた。
 淡い髪の少年と、あと、ときどき金髪と黒髪の少年も一緒になって遊んでいた。
 別れる時は、必ず次会う約束をしていたなぁと思い出す。
 両親が亡くなってテニトラニス国に行ってから、その約束は10年間果たせてないけど。
 約束通り、王宮へと足を向ける。
 高台へと続く長い上り坂で少し息が上がってくる。
 途中、行き来する馬車に道を譲りながらなんとか城壁までたどり着いた。
 近くで見ると平民からすると妙に威圧感を感じる。
 呼吸を整えてから、城門の側に設けられた詰所の守衛に声をかけた。
「すみません。アルカディア=リーマと申します。〝アルカディア〟という名前の者を探していると聞いて来たんですけど・・・」
 シノに話しは通してあると言われていたが、それが通じるかどうかは判らない。
 妙に緊張して声が震える。

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