WANTED ~何故か隣国で指名手配されていたので、乗り込んでみました~ (平行世界)
「…シ…フィラノ様?」
 なんか呼び慣れていない。
「…シノ…」
 この数日間で呼びなれた名前も、王子を呼び捨てもどうかなぁと思って違和感を感じる。
 チラッと視線をケーノサに向けだが、彼は別に何も思っていないようだ。
 しかし、シーフィラノは全く目覚める気配がない。
「きっかけ…か」
 約束したのはおよそ10年前。
 だったら、その時の呼び方で……。
 日焼けしていない白い腕が、ベッドの上に投げ出されている。
 動かない手をとって、そっと両手で包む。
 温かい体温を感じることに、ほっとする。
 ちゃんと、生きている。
「『しーさま』、約束通り、逢いに来たよ」
 部屋の空気が張り詰めた気がして、ピシッと何かが割れるような音が脳裏に響いた。
 反射的にシーフィラノの手を握りしめ、目を閉じた。
 しばらくそのままでいたアルカディアは、重ねられた大きな手に、反射的に顔をあげた。
 ベッドの上で青い双眸がしっかりと彼女の姿を捉えていた。
「16って言ったのに、遅かったね」
「シノが迎えに来ないからでしょ」
「だから、ちゃんと迎えに行っただろ」
 変わらぬ口調の、シノがソコにいた。
 しかし口調は同じでも声質が違う。
 少年っぽさが抜けた、青年の声だった。
 シーフィラノはベッドから起き上がり、ちょっとふらつきながらも床に足をつける。
 3年間眠ったままの身体はやっぱりどこかぎこちない。
 支えようとしたケーノサの腕をやんわりと遮って、アルカディアの前に立つ。
 まるで自分の躰かどうかを確かめるみたいに、ゆっくりと。
 しかし、身体を支える筋力が落ちている体は不安定だ。
「ちょっと、シノ!? 大丈夫?」
 思わず手を出したアルカディアの腕は、遮ぎられることなくシーフィラノに届いた。
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