WANTED ~何故か隣国で指名手配されていたので、乗り込んでみました~ (平行世界)
 開けた瞳が最初に捕らえたのは、淡い髪の青い瞳。
「おはよう、よく眠れた? ディア」
 少し心配そうな表情の中に、楽しげな笑みが浮かぶのを見て、ディアは慌てて上半身を起こす。
 どうやらシノに膝枕をされていたらしい。
 周囲を見渡してココは船の中だと気づく。
「…えーっと…男たちに追いかけられて……」
「そうだよ、狙われてたんだから、もっと気をつけなきゃダメでしょ」
「…ごめんなさい」
 でも、気を失う前にシノとは違う別の人がいたような。
「……助けてくれた時、誰か別の人がいたよ、ね?」
「僕一人じゃ無理だからね。知り合い頼んだ」
「知り合い?」
「この船に同乗してるよ。この個室も自由に使っていいって」
 言われて見渡せば、簡易ベッドになる長椅子が並んだ区切られた空間。
 豪華とは言えないけれど、大勢の人たちが行き来していたプライベートなしの客席とは、乗船金額は倍以上違ってくるだろう。
「えぇっ お礼、言わなきゃっ」
 助けてもらってここまで運んでもらったばかりか、こんな個室まで用意してくれるなんて、感謝の思いだ。
「…僕には何の感謝もなしかよ」
 言葉は拗ねて見せても顔と口調は笑っている。
「私に勝手に付いてきてるんだから、それくらいしてもいいだろう」
「えー ひどくない?」
「ひどくないっ」
 気分を変えるために室内の窓を開けた。
 心地よい潮風が頬に当たり、長い髪を揺らす。
 太陽はすでに昇り、波間に光が反射する光景に心が和む。
 もう、元居た北の大陸の影も全く見えなくなり、反対に南の大陸の影がうっすらと地平線に見え始めている。
 太陽が南中を過ぎて半分傾くころには大陸に到着するだろう。穏やかな波の上を、船は滑るように進んで行った。

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