たった一度のモテ期なら。

今日の午後は、綾香のお客さんのところにサービスエンジニアである原ちゃんがついていった案件だったらしい。

先方の担当者さんがくせのある人だっていうのは私も綾香に聞いたことがある。

「この人行く前から担当さんのモノマネとかしてるからさ、俺笑いこらえるのに必死で大変だった」

「似てたでしょ」

「美人台無しだから大概にしとけよ、ほんと」

「西山にも褒められた持ちネタだからねー」

原ちゃんの非難をものともしない綾香は、ほんとかっこいい女子だと思う。

去年までは綾香と西山は同じ営業三課だった。引き継いだ担当もあるらしく、2人は今も仕事の話がよく通じていて楽しそうだ。

「いいなぁ、みんなで同じお客さんを知ってて」

「奈緒が知らなくても何も損してないよ。だいたい地味な継続サポートばっかりだし、私の担当。私も一課の大口案件とかに関わりたいのに」

綾香が西山をライバル視してるのは周知の事実。でもきれいな女性だということで、お客さんには受けが良くても実際は軽く見られがちらしい。

美人は美人で、大変なんだろうね。



2人の仕事の話をもう少し聞いて、あとは誰も来なそうだから場所変えようかという話になる。

初めて入ったこの店は、私たちの好みとちょっと違ったから。

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