たった一度のモテ期なら。
俺だって、なんで『くん』付け?今まで苗字呼び捨てだったのに?と最初は思った。

「かずおみって呼びにくいなぁって。でもダメかな。変な感じする?前の彼女にはなんて、あ、うそ、聞きたくないかも」と1人でこんがらがっている奈緒の様子を見れば文句も言えなかったわけで。

あいつはどこまで天然なのかわからない感じに、絶妙にうまく甘えてくる。

完全に振り回されてる自覚があるんだが、丸野には「西山は優しいんだよ」とのろけてるらしいから計算ではないんだろう。

ハマったら死ねると思った俺の直感は間違いじゃなかった。でもまあ生き延びてる、かなり幸せな感じで。



「悪い、ちょっと急に残業。結構かかりそう」

『ええー、そうなんだ。会いたかったのにな』

「ごめん、週末埋め合わせするから」

怒るでもなく寂しがってくれるところがかわいい。電話越しに表情が想像できる。

『じゃあ一瞬だけ、今ちょっと話せる?』

「いいよ」

あれか、時々言ってくる『好きって言って欲しい』ってやつかな。今のところこの廊下には誰もいないが、さすがにちょっと場所考えないと。
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