たった一度のモテ期なら。
昼時に会社に戻ってこれそうな日を綾香に聞いて、空いてる会議室でランチをしている。毎朝作っているお弁当は、今日は相談料として綾香と二人分だ。
「あの人畜無害そうな小林くんか。なるほど、そうきたか」
そう言いながらお弁当を食べ始め、考えてくれてるのかと思ったら単に味わっているらしい。
「これおいしい、肉巻き。原ちゃんに自慢しよう、奈緒の手料理食べちゃったって」
「原ちゃんはもっとがっつりしたお肉が食べたそうだよ」
スマホで写真を撮っている綾香に言ってみるけれど、「欲しがったってあげないけどねー」と聞いてなさそう。でもひとしきり食べて満足したところで、相談にはちゃんと答えてくれる。
「次の約束につなげるところはそつない気がするけどね。単に何も考えていない映画オタクだとしても、まぁあわよくば彼女欲しいと思ってるもんよ、20代男子は」
「そうかな。じゃあどっちにしても誤解されないように『今は恋愛気分じゃない』ってさりげなく言っておけばいいのかな」
さりげなくなんてことが自分にできるのかはともかく、友達の友達と万が一こじれるのは困る。
「かもね。でもほんとのところはどうなの、奈緒。別に次の恋が始まってもいいんでしょ? 西山つながりだし悪い人じゃなさそうじゃん」
「うーん、好きになるってどんな感じだったかなぁと思って。恋をしている自分が思い浮かばない」
「ほんとに? モテ期なのにもったいない」
モテ期ってどこが?たとえ小林くんに気に入られてるとして(それも怪しいものだ)、他がいない。