たった一度のモテ期なら。
「今さ、うちの同期って彼氏彼女持ち2人だけだって知ってる?」
「うん、それは知ってるけど。でも私のことを好きな人はいないよ」
「気づいてないって可能性は?」
可能性?うーん、と考えてみるが。綾香に振られたはずの2人と、こないだマジになるなと言った原ちゃん、そして仲間内なんてめんどくさいと言い切っている西山。
「さすがにないと思う」
「じゃあ、最近食事に誘って来る人とか他にいない?」
「他に? 別にないけど」
ふぅ、と綾香がため息をつく。
ないよ!ないよね? だいたい私が誘われてないのに綾香が知ってるとか意味わからない。
「営業二課の貴公子」
呟くように綾香が告げる。ああ、なんだそのこと。二課の誰かに聞いたのかな。
「なーんだ。あんなの全然関係ないよ」
笑っちゃったら驚かれた。
あれ、意外と綾香も富樫課長に興味あるんだ? 基準をクリアしてるのかな。
あんな風に懐柔されることは他の部署でもたまにはある。綾香は営業だからわからないんだろう。
「経理に仕事押し付けたいだけだし、セクハラに近いようなお誘い時々あるよ?」
「他のおじさんたちと同じ扱いはないんじゃない?」
「そう? セクハラって言うのは違うなら、女性を見たら誘わなくちゃ失礼だと思ってるイタリア人系じゃない? モテ期って言うから、ほんとに誰かにモテてるのかと思ったよ」
あんな誰にでも聞こえる場所で軽く誘われるなんて、関係ないでしょ。
綾香だって担当先で二人きりになるとこそっと誘われるって言ってたくせに。全部もれなく断っているそうだけど。