たった一度のモテ期なら。


帰り道、貴公子にお茶に誘って頂いた。できれば戻って急ぎの仕事を片付けたい気持ちと、せっかくなのでもう少しこの人を知ってみたい気持ちがせめぎ合う。

「昼飯食えてなくてさ、でも一人飯は苦手なんだよね」

わざとらしく胃のあたりを押さえて言う姿にほだされてしまった。西山みたいで意外とかわいいと思って。



お店のドアを開けてくれたり、私のことをいろいろ聞いてくれたり。モテる男の人だからか、御曹司だからか、それとも両方なのか、さりげなく紳士的でいい気分にさせられてしまう。

地味な暮らしの私にとっては慣れない女の子扱いなのに、まごつかされることすらないというか。

あの綾香でさえもこの人のことが気になっちゃうのはわかる気がする。

「影森さんて西山の彼女じゃないんだね。そう聞いた気がしたんだけどな」

そしてパスタを食べ終わってから話を蒸し返された。誰に聞いたのか知らないけれど、よほど疎い人がいるのかわざと嘘を教えられたかどっちなんだろうか。



「だったら俺とデートしようか」

考えてたところに言われて、ぽかんとした。ああ、こういう風に女の子に声をかけるものなんだ。それも新鮮。

「私、面と向かってそんなこと言われたの初めてです」

「え? 初めて?かわいいのに」

わぁ、「かわいいのに」も本日二回目。

「免疫ないのでからかわないでください」

社交辞令とわかっていてもうっすら赤くなった自覚があって悔しいけど、仕方ない。できるイケメン上司のくせにそんなこと言ってくる方が悪い。

「自分から狩りに行くタイプなの?意外だな」

狩り? 肉食系恋愛って思考回路が違うんだなって、びっくりしているうちに反論を忘れた。

狩りに行くってどんな感じにするんだろう。「ねえ、私とデートしない?」って聞くの? ちがうよね。しかも想像上の相手が西山になっていて、うわぁありえないって慌てて打ち消してますます赤くなる。

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