たった一度のモテ期なら。
小林くんとはその後会社帰りに会って約束の本を渡し、誘われてご飯を一緒に食べた。

本はいつでもいいから西山に渡しておいてくれてもと言ったら「ニシはぱしられるの嫌がるんだよね」と意外とはっきり断られてしまった。

読み終わったら連絡すると言われて、しばらく仕事が忙しいから急がないでいいよ、と答えてみる。

小林くんは「そうか、ゆっくり読めて助かる」とニコニコしているだけだ。

「西山って私のこと何か言ってた?」

ふと気になって聞いてみた。脚本スクールのこととか、小林くんに言ってはいないだろうと思うけれど。

「彼氏はいないっていうのは聞いたけど」

と小林くんがにっこりする。

俺と付き合わない?なんて言われるのかと一瞬身構えたけれど。

「うちの同期も仲いいけど、趣味合う奴いないんだよね。技術書か漫画なら読むって奴らで」

と返ってきた反応に、過剰反応した自分を反省する。

小林くんはSEをやっていてかなり男性率が高い職場だって聞いたから、女友達が欲しい感じなのかもしれない。

私の考えすぎだったよね。

もー、綾香のせいで自意識過剰だ! 何がモテ期だよ。しかもあの貴公子のせいで、最近変に褒められ慣れしてるのかも。

妙に調子に乗らないように気をつけないと。

< 32 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop