たった一度のモテ期なら。
そして忙しい時期の仕事は重なるものらしく、本社に提出するデータファイルを加工してほしいと経理課長に頼まれた。
今週いっぱいならいいですよと安請け合いしたものの意外と複雑な内容で、スキルがない私は苦戦している。
課長は「若い子はソフトウェアが得意」と思い込んでいるが、本やネットで調べながらの対処で時間がかかるものだった。
場所を変えてみようかと、誰も使っていない4人がけの打ち合わせコーナーに資料を持って行って考えることにした。
一度パソコンから離れてみる作戦。作戦と呼べるようなものではないなんてことは、誰に言われなくてもわかってます。
「影森?」
しばらくしてパーティションの隙間から声をかけてきたのは、通りすがりの西山だった。
「頭抱えて悩んでるとか古典的だな。大丈夫か?」
「うん。データ加工とか頼まれてるんだけど、私あんまり得意じゃないから」
「見てやろうか?」
コーナーブースに入ってきて私の肩越しに覗こうとする西山を慌てて手のひらで遮った。
「大丈夫。数字部外秘だし、西山忙しいのに悪いから」
「期限は?」
「今週中。だから何とかなると思う」
「なりそうには見えないけど?」
ちらりと資料に目をやって、西山が首を傾げる。資料にごちゃごちゃと書き込んだ跡を見られて、言葉もありません。いじってるうちにわかんなくなってきちゃって。
「俺にできると思ってないんだろ。一課でデータ資料作らされまくってるから割と得意だよ」
そうなんだ、と思わず期待が顔に出てしまったらしく、西山は軽くふきだした。
「数字ダミーにしといて。でもそんなに嬉しそうな顔させといて、役に立たなかったらごめんな」
丸めた資料で私の頭を軽く叩き、明日の定時後なら時間作れるからと言いおいて歩き去っていく。
疲れ果てていた心が急速に浮上した。この仕事ってそんなに負担だったのかなと自分でも驚くぐらいに。