たった一度のモテ期なら。
「私も頑張らないとなぁ。迷惑かけてばっかりじゃだめだよね」

「財務系の知識は足りないから、こういうの俺も勉強になるんだって。だいたいいちいち迷惑とか言うな。同期なんだから助け合って当然」

そう言ってはくれるけれど、助けてあげられることなんてないからなぁ。

せめて作業中に廊下の角の自販機で買っておいた缶コーヒーを手渡すと、西山はリラックスするように脚を伸ばした。

「こないだ富樫課長と一緒にいたの、仕事?」

「グループ本社の経理プロジェクトにうちも協力するんだって」

「本社行ってきたのか。本社との絡みなんてめったにないのに、すごいじゃん」

「うん、でも別にやることそれほどない感じ。もうすぐ営業に試験利用してもらうけど、たぶん二課だけなんじゃないかな」

「なんで経理のプロジェクトに富樫課長が絡んでんの」

「なんでだろうね」

知らないふりで答えたはずなのに、お前なんか知ってるな、と目を細めて疑われる。

変なことを口走らないように口をぎゅっと結んで首を振ると、笑いながら口の端をつままれた。

「嘘が下手なんだよ、気になるから言え。それも黙っといてやるから」

「言わないでって言われたの。これあげるから許して」

ポケットからチロルチョコを差し出したら、パッケージを長い指でいじりながら「気に入られてるよな」と言った。
< 36 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop