たった一度のモテ期なら。
そしてどこの部署も忙しい年度末のはずなのに、忙しくなるほど「帰りにちょっと寄って行こう」と声を掛け合うようになるのがうちの同期で。
「影森、また残業? 終わったらパブって話出てるよ」
書類を抱えて行ったり来たりしていたら、原ちゃんに廊下で声をかけられた。
「そうなの? 原ちゃんも行く?」
「影森が行くなら行くよ」
そう言ってくれたら行くしかないよね。「じゃあ原ちゃんのために行かなくちゃ」と笑って答えた。
「重そうだな。手伝おうか?」
「ありがとう。でも毎年のことだから平気」
台車を使うほどではないけれどちょっと重い荷物がこの時期の経理には多くて、男手が欲しいところではある。
「俺のために来てくれるって言うのにほっとけないよな」
断ったのにも関わらず、原ちゃんは結局半分持ってくれた。優しいなぁ、うちの同期は本当に最高だ。
それに疲れてるけれどちょっと話したいって気分、私だけじゃないんだなってちょっと気持ちが上がる。
経理課は総務部の奥地にあり、立地上も情報に疎い人が多い。そして同期達がスマホでやり取りしていても、うちの課長は「業務時間中はしまっておいてね」という人なのでチェックもできない。
さらに私はもともと周りの動きに疎い。
そんなわけで、こうやって声をかけてもらえる機会は貴重なのです。