たった一度のモテ期なら。
原ちゃんと連れ立ってパブに顔を出すと、いつもの丸テーブルに先にいたのは2人だけだった。
「営業からは丸野だけ?西山は?あいつが言い出したのに」
原ちゃんに聞かれて綾香は不機嫌そう。
「暇で悪かったわね。西山も他もみんな忙しそうよ」
「まぁ今になって数字あげなきゃいけない奴らに比べたら、多少は余裕あるぐらいでちょうどいいだろ」
綾香をなだめつつ、まあ飲めと原ちゃんは新しいグラスを勧めている。
「綾香がヒマなら、私なんて決算期以外は年中暇だらけだよ?」
私のフォローはフォローになっていないらしく、「奈緒はいいじゃん」と綾香がむくれた。
そうだよね、私と比べられてもね。綾香のライバルは西山なんだもんね。
「本社プロジェクトに入ったんでしょ。地味な仕事ばっかりの私とは違う世界だよね」
「え、あんなのそんな派手な仕事じゃないよ」
本社に顔を出す程度のものだって綾香にも話したはずなのに。
富樫課長がらみなのは女性の皆さんに羨ましがられそうだけど、私はあの軽さに反応するのが難しくて、失礼にならないように気を張っていて疲れるくらいだ。