たった一度のモテ期なら。

「まあ明日もあるし、そろそろ帰るか」

「とにかく」

まとめようとした原ちゃんの言葉を無視するように綾香が割り込む。

「さっさと決めちゃおうよ、奈緒。小林か、貴公子か、原ちゃん。誰にするの」

「なんで急に原ちゃんまで……」

誰にするってどういうことなの。問い詰められる方向性がよくわからないまま、これ以上刺激したくなくて言葉に詰まる。

「やっぱり富樫課長なわけ? 遊ばれても知らないよ?」

「違うってば。原ちゃんがいい。原ちゃんが一番好き。ね?だから安心して?」

原ちゃんに逃げるしかないでしょう、この三択。

これで納得してくれるかなと顔を見ると、綾香の目線が私を通り越して斜め後ろに行って、ちょっと口を歪めて微笑んだように見えた。

振り向くと、困ったような原ちゃんと、ちょうど来たらしい西山が立っていた。






「何この酔っ払い?」

一瞬の間の後、いつも通りの西山がちょっと冷たく言って、「酔ってないけど?」と綾香が姿勢を立て直す。西山には見られたくないみたい。

「遅いんだよ、西山。俺らそろそろ帰ろうかと思って。この人酔ってるし」

「だから酔ってないって言ってるでしょ」

「はいはい、わかりました。俺明日も早いから、とにかく出ようぜ」

原ちゃんが促すと、意外と素直に従って綾香もよろめきながら立ち上がった。


「奈緒ももう帰ろう。原ちゃんも一緒だし」

綾香に従ったほうがよさそうだと、西山たちを残して私も帰ることにした。

歩き出した綾香はそれからはご機嫌で「よかったね、原ちゃん」と背中を叩いていた。

でも1人で帰れるから奈緒を送ってやってとごねる酔っ払いぶりに、原ちゃんは結局いつも通り手を焼くことになっていた。

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