たった一度のモテ期なら。
本社プロジェクトで仕事が増えたこととは関係なく、決算準備や棚卸作業で年明けから加速度的に忙しくなっていくのが我が経理部の毎年のルーティンだ。

そして早めにやろうやろうと言いながらも結局真冬に震えながら始める経理倉庫の整理も、毎年のこと。

経理倉庫に台車を戻しに行った帰り、あまり使われない隅のエレベーターを降りたところで、非常階段から中に入ってきた西山に遭遇した。

「よう」

走って来たんだろう。軽く冷気をまとった西山は小さく息をついている。

「下から登ってきたの?寒くない?」

「完全に外階段ってわけじゃないし、そんなに変わらないって」

そうは言うけど、こんな隅の階段まで来るなら冬場ぐらいは乗ればいいのにと思う。

西山はあまりエレベーターに乗らない。筋トレ代わりと本人は言っているが、本当は狭いところが苦手なんじゃないかと私は勝手に思っている。

カラオケもすぐ帰っちゃったりするし、少し閉所恐怖症的なところがあるんじゃないかなって。

「影森、こないだの資料上手くいった?」

そんな私の詮索は知らず、西山は今日も親切。

「うん、ありがとね。でもちょっと直したいところもあるから、また見てもらえる?」

今時間あるけど、と西山が呟いたところで角の向こうの自販機エリアから高く通る声が聞こえてきた。
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