たった一度のモテ期なら。
「ほんとムカつくんだよね、あの子」

あれ、この声。二課の木元さんかなって嫌な想像がよぎる。

「富樫課長案件なら先にそう言えっての。私がわがまま言ってるみたいになっててさ」

「なにそれ、ひどいね。わざとだったりしてね」

やっぱり私のことだってつい息を潜めた。やっぱり課長のことあの時言えばよかったんだ。

「ありえる。男に媚び売っといて面倒はこっちに押し付けてさあ、ああいう子一番苦手」

「影森さんってそういう感じなんだ? ニコニコしてるのに腹黒いって男の人にはわかんないからなぁ」

自販機の前に2人でいるようで、飲み物がガタンと出る音と同じくらいはっきりと話し声も聞こえてきた。思った以上にきつい悪口。

西山は何も言わずに私の肩に手を置いて、彼女達と反対側の非常階段に促すように押した。

話を聞きたくないと思うのに、でも、足が動かない。

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