たった一度のモテ期なら。

「だいたいさ、西山くんに相手にされなくて今度は富樫課長って、身の程知らずすぎるでしょ」

「それは確かに。夢見過ぎかも」

笑い声まじりの相槌に、水をかけられたように身体が冷たくなる。西山も自分の名前が出てきたことに息を呑んだようだった。



「お疲れ様です」

そこに新しい声が混ざると、あぁ、お帰りなさい、と木元さんの声が苦笑いするように柔らかくなる。

「聞こえちゃった?」

「奈緒は気を持たせるのもうまいから、富樫課長も意外と本気かもしれないですよ」

綾香は表情のわからない声で言いながら、ガタンと音を立てて自分も飲み物を買っているみたいだ。

「やだぁ、ないでしょ!丸野さんならお似合いだけど」

「モテますよ、あの子。あっちこっちで。気づいてない顔してますけど」

「あー、わかる。ああいう天然風な子が好きな男っているんだよねぇ。騙されてるのに気づけって言いたくなるよね」

「同期って複雑だよね。女子2人だけなんだっけ?」

木元さんの声を最後に3人の声は遠ざかっていく。

綾香は悪口に積極的には乗らなくても私をかばってくれることもないんだなって、ぼんやりと思った。


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