たった一度のモテ期なら。
声が聞こえなくなってから、西山が怒ったような低い声で「なんだよ、あれ」と言った。

「丸野だったよな」と動き出そうとした腕を掴んで首を振って止める。

綾香も富樫課長関係で私にイライラしてるのは知ってる。西山をこんなことに巻き込みたくない。

「西山にかばってもらっても、意味ないから」

それより『西山くんに相手にされなくて』ばかりが心に刺さって、私はまだ動けなかった。

「意味なくないだろ。影森はそんなんじゃないんだから」

「そうでもないよ」

相手にもされない、対象外の不毛な片思い。そうだ、それが自分だと急にすとんと心に落ちた。

自分をうまく誤魔化したつもりでも、周りにはバレバレだったんだ。

営業事務の人たちにもそんな風に憐れまれてるのかと情けなくて、ちょっと涙が滲んだ。



「課長となんか、あったのか?」

とがめるような口調に目をあげると、西山は怖いような真顔で私を見ていた。

「やめとけって言ったよな?」

「社内だから? ……西山には迷惑かけないから関係ないでしょ?」

「関係なくねえよ。嫌なんだよ、お前が傷つくのとか」

「相手にされるわけないって聞いたでしょ。富樫課長じゃなくて、原ちゃんだったらいいの?」

なぜだか悔しくなってきて西山を睨むように見つめた。なんで私にそんなに口出してくるの?自分だって相手にもしてないくせに。

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