たった一度のモテ期なら。
それはそうと、仕事をしよう。いよいよ新しいシステムの試験利用が始まるから、木元さんにはもう一度謝ってなんとか協力を取り付けたい。
そちらも逃げ回っていたことを自覚して、思い切って後ろ姿に声を掛けた。
「木元さん」
振り向いてくれた彼女は、「ああ、影森さん。こないだの話?」と意外にも声が明るい。
「課長にも頼まれたからね」
「あの、説明が足りなくてすみませんでした」
「いいよ、別に。私も少しイライラしてごめんね? 経理も忙しいのにプロジェクト参加とか大変だよね。協力するからいろいろ教えてよ」
あまりにも落差のある態度に、どう対応していいかわからず「ぅはい」と変な声が出た。
「何その声!しっかりしてよー」
と声を立てて笑われるほどご機嫌だ。木元さんは別に裏表のある人ではないから、本当にもう怒ってないんだろう。
『課長にも頼まれたから』ってそれだけでいいの? 貴公子の人気に舌を巻くしかなかった。